イギリスで初音ミクの開発者がイギリスで語ったこと(2012年10月20日公開)
>Anime UK News「Hatsune Miku's creator talks to the UK」


■講演後のQ&A
忙しいスケジュールにも関わらず、伊藤氏は時間をさいて聴衆の質問に答えてくれた。
聴衆「どうやって収入を確保するのですか? 自由な創作を許したら売り上げが減るでしょう?」
伊藤「基本はソフトの売り上げですが、それに加えて初音ミクの商業用ライセンスからも収入があります。多くの企業が自社製品の宣伝にミクを使ってくれます。すでにさまざまな分野の商品にミクのライセンスを提供してきました」
聴衆「会社を設立するとき、どのように資金を調達したのですか?」
伊藤「ソフトウェア開発の仕事なので、それほど多くの資材はいりません。最初は数名のプログラム担当者と、彼らが使うコンピュータだけで始まったのです。したがって資金もあまり必要としませんでした」
聴衆「イトーサン、講演の最後で、これからはネット上のソーシャルメディアを利用することが重要だとおっしゃいましたが、そのへんをもう少し説明してくれますか?」
伊藤「数年前まで、企業は株主やクライアントなど、少数のステイクホルダーとしか会話してきませんでした。しかし今ではネットワークを通じて、何百万もの人とつながることができます。従来はすべての消費者と話すことは不可能でしたが、今やそれができる時代になったのです」
聴衆「ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)を作ったのはなぜですか? クリエイティブ・コモン・ライセンス(CCL)ではいけないのですか?」
伊藤「PCLは、キャラクターを知的財産として保護します。一方CCLは、著作権を保護します。この両者の違いについては、PCLとCCLの定義を参照してください」
聴衆「ボーカロイドと同様のソフトが中国やメキシコで開発されていますが、どうお思いですか?」
伊藤「技術開発の機会は誰にも公平に与えられるべきで、妨害してはならないと思います。私たちは私たちのやり方で開発を進め、別の誰かは別の方法を試す、そういう中から技術革新が生まれるのでしょう。したがって彼らの取り組みも、歓迎すべきかと思われます」
■AUKN(Anime UK News)によるインタビュー
AUKN「あなたの会社とそのボーカロイドを簡単に紹介してもらえますか?」
伊藤「クリプトン社は札幌にあります。初音ミク、鏡音リン・レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITOという5つのボーカロイド製品を開発しました。鏡音リン・レンには、鏡音リンと鏡音レンの2人分のデータが入っているので、ボーカロイドの人数としては6人です」
AUKN「1体のボーカロイドを開発するのに必要な期間はどれぐらいですか? 録音から、音声データ化、製品化まで含めた合計時間は?」
伊藤「そうですね、かなり長期間です。音声データの量によっても変わります。初音ミクはデータベース1個でした。鏡音リン・レンはデータベースが2個になりました。巡音ルカも日本語と英語で2個のデータベースが必要でした。また言語によっても開発期間は異なります。日本語データベースの作成にはおよそ4週間かかりますが、英語データベースの場合は、もっと多くの音素を含むため、完成に必要な時間は3~4倍に増えます」
AUKN「講演の中で、初音ミクの英語版を開発中とお聞きしましたが、公開はいつになるのでしょうか?」
伊藤「開発を始めてから1年以上たちました。希望としては今年の年末までに完成するといいのですが」
AUKN「ということは、来年には公開が期待できますか?」
伊藤「はい、おそらく」
AUKN「初音ミクのコンサートをヨーロッパで開く予定はありますか? できれば、このイギリスで?」
伊藤「欧州コンサートはぜひ実現したいのですが、今はアイデア段階というところで、予定は立っていません」
AUKN「初音ミクをヨーロッパに呼んだ場合、何人の観客を集められると思いますか?」
伊藤「ヨーロッパにおけるミクの知名度もわかりませんし、申しわけないですが、何とも言えません…」
AUKN「まあ、こちらのファンは主にオンラインで活動しますし、実際にどれだけの人が会場に来るかは、予測しがたいですね」
伊藤「あなたの予想では、およそ何人のファンが集まると思いますか。たとえばイギリスで開催するとして」
AUKN「それは良い質問ですね。ちょっと強気に言いますが、少なくとも2~3千人は集まると思います。その理由のひとつは、欧州における国と国の近さです。たとえば誰かアーチストが、ロンドンか、パリか、あるいはドイツのどこかに来るとしましょう。するとファンたちは、国境を越えて集まるのです。宇多田ヒカルやX-Japanがこちらに来たときは、何日分もの公演チケットが売り切れました。最初は1回の公演で終わる予定だったのですが、チケットが売り切れたため、追加公演が行われたのです」
伊藤「そのときの会場のキャパシティは?」
AUKN「たしか1万人でした(注)。彼らのためにヨーロッパ中から人がやって来たんですよ」
伊藤「そんなに大きい会場とは、失礼しました。先のことはわかりませんが、いつか初音ミクの欧州コンサートが開ければよいと思います」
(AUKNによる注:あとで確認したら宇多田ヒカルもX-Japanも、2千人の会場でした)
AUKN「クリプトン社は、クリエイターが初音ミクやルカなどを利用して生み出した楽曲、動画、その他すべての創作物に関与しています。これはクリプトン社が、多くの才能を集めて作品を生み出すという、いわゆるクラウドソーシングをおこなっていると言えるでしょうか?」
伊藤「いえ、そうではありません。クラウドソーシングというのは、誰かがトップダウンで指示して進める作業です。ボーカロイドのファンは、誰の指示も受けずに自発的に集まります。そういう自発的集団の中にはクリエイターもいればそのファンもいて、クリプトン社の依頼ではなく、自分たちの好きなように創作を進めています」
AUKN「英語版のピアプロは作らないのですか?」
伊藤「それは可能です。ピアプロはすべてのクリエイターに開かれたサイトです。ただしそのためには、日本語で書かれたライセンス条項などを英語に翻訳しなければなりません。かなり時間がかかるでしょうが、不可能ではありません」
AUKN「ボーカロイドを英語以外の言語に対応させることはないのですか?」
伊藤「たとえば中国語やフランス語や、その他どんな言語でも、やってできないことはないでしょう。しかし我々にはその経験がないため、何とも言えません。」
AUKN「了解です。それでも私たちが多言語化をどれほど心待ちにしているか、ぜひご理解ください…」
伊藤「巡音ルカを開発したことが、他のボーカロイドの英語化に役立ちました。しかしそれ以外の言語については、まったく未経験なのです」
AUKN「クリプトン社には、何名のかたが働いているのですか?」
伊藤「社員は60名です。ただしわが社はソフトウェアの自社開発だけでなく、他社製品の日本での代理店業務などもおこなっています。すべての社員がボーカロイドに関わっているわけではありません」
AUKN「さきほどサイモン・カウェルの名前が出ました。あなたがご存知かどうか知りませんが、彼は一般人が出て歌う番組を持っていて、そこで選ばれた人が、たいして実力もないのに歌手デビューしたりしています。聞けば日本のアイドルも似たようなものらしいですね。ボーカロイドは、そういうでっち上げの歌手を駆逐すると思いますか?」
伊藤「いや、そうは思いません。もともとボーカロイドは、普通の人の歌声を出すように作られていて、決して天才歌手を生み出す秘密兵器ではありません。したがって、今のボーカロイドこそ、メディアによって実力以上にまつりあげられた存在なのです。ボーカロイドの歌声は、何度も聞くうち耳にしみるようなものであるべきで、スターデビューは本来のあり方と正反対です。そう、ボーカロイドは人間の歌い手の代わりにはなりません。」
AUKN「初音ミクの英語版の他に、なにか進行中のプロジェクトはありますか?」
伊藤「KAITOの英語データベース作成を進めており、作業はほぼ終わっています。MEIKOとルカについても、VOCALOID-3や英語に対応したデータベースを作る予定があります」
AUKN「やったあ、期待してます。それでは、どうもありがとうございました。こちらAnime UK Newsでした」
Anime UK Newsは、シンポジウムやQ&Aの進行とAnime UK Newsの参加にご協力いただいたエジンバラ大学のウルス・マチアス・ザッハマン教授に感謝します。また、伊藤氏へのインタビューの際に通訳をしていただいた大和日英基金の小川紫保子氏に感謝します。
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